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2016年10月18日

闇の夢ーもっとお前を感じたいー



1. 

 もっと側にいたい。 
 もっと近くにいたい。 
 それは我儘か? 
 それは無理なコトか? 
 なあ瑞穂。 
 教えてくれ。 
 お前は俺を愛してるのか? 
 俺はお前の何なんだ? 
 瑞穂瑞穂瑞穂。 
 答えて、くれ。 

 闇に覆われる。 
 その中で。 
 ただ瑞穂の影だけが、白く浮かび上がる。 
 それだけが真実だというように。 
 それだけが答えだというように。 


――ずっと側にいたい。 
 ねだる。 
――一緒にいるだろう? 
 瑞穂が答える。 
――もっと一緒にいたいんだ。 
 またねだる。 
――側にいなくても。心は一緒に在るよ。 

 そうではないのだ。 
 欲しいのは。 
 もっと、ずっと、確かな証拠。 
 どうしたらもっと側にいれる? 
 どうしたら判ってもらえる? 
 瑞穂…… 


貴方がここにいない 
 お前がここにいない 
それは淋しい事? 
 それは淋しいコト 
貴方は何故淋しいの? 
 お前は何故淋しくないんだ? 
一人でも夢は紡げる 
 二人でしか紡げない夢もある 
愛した記憶さえあれば生きていける 
 記憶があっても淋しさは胸を焦がす 

 まるで傷を求めるように 
 相手を傷つける 
 見えない朱は 
 心を昏く染める 


独占欲は愛じゃない 
 愛とは執着する事ではないのか 
執着は妄執でしかない 
 愛することは貪欲になる事ではないのか 

 束縛すらも愛と呼ぶならば 
 愛は全ての免罪符 
 独占すらも望むなら 
 永遠すらも望めない 


ねえ遠矢、どうして今のままじゃダメなの? 
 お前が足りない 
一緒にいるだけじゃダメなの? 
 一緒にいてもお前が遠いから 

 判っている、我儘だと。 
 知っている、瑞穂を傷付けていると。 
 けれどダメなんだ。 
 だって…… 
 お前が俺を殺すんだ。 
 お前は決して俺を傷付けない、けれど心が鮮赤の涙を流す。 
 涙は緩く心を覆って…… 
 世界は闇に呑まれる。 

 お前が光。 
 お前だけが。 
 だから俺を救ってくれ。 


 瑞穂は、唇を噛み締め、そして囁いた。 
 ――いいよ、貴方が望むなら。 
 瑞穂が俺に抱きつく。 
 瑞穂の瞳に落ちた陰が、心に緩く棘を落とす。 
 けれど扉は開かれた。 
 お前はもう選択を下したのだから。 
 後戻りはできないし、する気もない。 

 微かに震えた声で、瑞穂はもう一度囁いた。 
 ――それで、いいんだね? 
 それは当然過ぎて。 
 俺は答えてやらなかった。 

 瑞穂の肩の向こうに、紅い月。 
 それを見るのも最後だな、とふと思った先で。 
 月は茶番を嘲るように。禍々しく輝いていた。 



rain.. 雨が降る 
rain.. 紅い水が滴る 
rabbitの亡骸を抱いて kittenは優しく微笑む 
rabbitの身体を染めて 優しく滴る紅い雨…… 

calling.. 触れ合う唇 
calling.. 重なる鼓動 
あの日の旋律を 嘘だと言うのなら 
あの日の君を 幻だと言うのなら 

rain.. 雨が降る 
rain.. 貴方が泣いている 
想いはまだ胸に有る 心はまだ泣いている 
想いを罪だと言うのなら 全ての愛は不義 

falling.. 光に堕ちる 
falling.. 貴方に堕ちる 
どこまで行けるか どこまで堕ちれるか 
貴方と一緒に 闇に沈んで
 



2. 


「さあ、填めるよ」 
 そう言って瑞穂は、遠矢の手首に冷たく光る銀の輪を填めた。 
 輪からは硬質な鎖が垂れていて、その先は瑞穂の手首にある、遠矢のそれと同じ銀の輪に繋がっていた。 
「鍵は、これ。こっちのが遠矢ので、こっちが私の。そしてこれを」 
 瑞穂は遠矢の鍵を抓むと、迷う素振りもなく飲み込んだ。 
 そして自分の鍵を、遠矢に手渡す。 
 遠矢はちらりと瑞穂の顔を見たが、やはり逡巡せずにそれを飲み込んだ。 
「これで、私達は離れられない。もし離れたいと思ったら、相手の腹を裂いて鍵を取り出せばいい。面倒もなくなって一石二鳥だ」 
 クスリと瑞穂は笑った、何処か自嘲的に。 
「そんな事せずとも、俺は逃げたりしないものを」 
「でも、覚えておきなよ。鍵はこの中だ」 
 瑞穂は誘うように、自らの腹を指差した。 
 それはまるで遠矢に勧めるような響きを持っていた。 
 遠矢の訝しげな視線を微笑みで流し、さて、と瑞穂は囁いた。 
「何かしたい事はある?」 
「何も……」 
「そう」 
 じゃあ、と瑞穂は遠矢をそっと抱き寄せた。 
「とりあえずは、こうしていようか」 
 遠矢は最初顔を赤らめていたが、じきに諦めて瑞穂に身体を預けた。 
 瑞穂の鼓動が耳に心地よい。 
 心が穏やかになっていくのを、遠矢は感じていた。 
 抱きすくめられている事が、瑞穂の体温が、安心させる。 
 守られている、というような…… 
 遠矢は何時しかウトウトとしかけていた。 
「眠るといいよ」 
 優しく囁かれた瑞穂の言葉すら、遠矢の耳には届かなかった。 
 ただ、その音は、自分の中の大切なものだ、とだけ、朧げではあったが認識できた。 
 柔らかな海に漂っているような感覚。 
 遠矢の知らない感覚、それは、胎内の中での原初の眠りに近かった。 
 心に陰を落とすものは何もなく、ただ穏やかに時が流れる。 
 ああ、と遠矢は微睡の中で思った。 
 自分はこの穏やかな眠りが欲しかったのだ。 
 瑞穂を失う悪夢にうなされる事もなく。 
 この温もりに抱かれて眠れる時間を望んでいたのだ。 
 この腕に鎖の冷たさがある限り、それはなくならないのだと思って。 
 遠矢はそっと意識を手放した。 

 愛しい人が完全に眠ったのを感じ取って。瑞穂は遠矢の額にそっと口付けた。 
「おやすみ、遠矢」 
 起こさぬように小さく囁き、瑞穂もまた目を閉じた。 
 起きた時には身体が痛くなっているかな、と意識の端で思いながら。 
 それでも瑞穂は姿勢を変える事もせずに、ゆっくりと眠りを受け入れたのだった。 



 ゆめだけだいて おねむりなさい 
 ふあんはそう、ここにはない 
 ゆめだけだいて おねむりなさい 
 やさしいゆめが きっとおとずれる 

 かなしみだいて ねむるひとに 
 たのしいゆめは おとずれない 
 だからみんなわすれて おねむりなさい 
 そうすればきっとしあわせ 
 そうすればきっとやさしい 

 ゆめだけだいて おねむりなさい 
 かなしみはそう いまはきずつけない 
 ゆめだけだいて おねむりなさい 
 やさしいゆめを あなたに
 



3. 


 遠矢が微かに身動ぐ。 
 ゆっくりと開かれる、目。 
 それに自分の像が結ばれた。 

――おはよう、遠矢。 
 ――…おはよう。 
――よく眠れた? 
 コクリと、遠矢が頷く。 
 ――ずっとそうしていたのか? 
――うん、まあね。 
 ――疲れただろう? 
――気遣ってくれてるの?でも平気だよ。 
 ――ずっと抱いてなくても良かったのに。 
――だって、動いたら遠矢が起きちゃうでしょう。 
 ――別に構わなかったのに。 
――照れてるの?可愛いね。 
 ――バカ。 
――睦言にしか聞こえないよ。 
 ――言ってろ。 


 クスクスと、笑う。 
 穏やかな会話が、嬉しくて。 
 穏やかな時が、幸せで。 
 私はそっと遠矢に口づけた。 
 掠めるような口付けを、幾度となく繰り返す。 
 愛しさを伝えるように、何度も、何度も。 

 ねえ、遠矢。貴方は満足? 
 自分を閉じ込めさせて。私を閉じ込めさせて。 
 私たちにはもう、互い以外ない。 
 貴方は自由を捨てる事で、証拠を手に入れた。 
 ここから逃げ出そうとしない限り、相手を愛してるのだと… 

 捕われる事で、捕える事でしか、安心できなかったという事実。 
 それは私の罪だ。 
 そしてこれは罰。 
 貴方は強いと思っていた、だから大丈夫だと。 
 けれど本当はこんなにも脆くて…… 
 だから、貴方が望むというのなら、何処までも付き合ってあげるよ。 
 否、付き合わせて欲しいんだ。 
 私の全てを、貴方にあげる。 

 私はね、遠矢。 
 不本意だったよ、本当は。 
 貴方は風。貴方は鳥。一つ所にいれぬ者。 
 貴方はその翼で、何処へでも行く、行ける。 
 そして何処かで傷付く。 
 貴方が傷付くのは嫌だったけど、その羽を手折れば貴方は貴方でなくなってしまうから。 
 だから、いつも私は黙って見送っていた。 
 貴方の自由な魂が、他の何でもない貴方自身こそが、好きだったから…… 
 だから閉じ込めるなんてできなかった。 

 束縛、執着、嫉妬、独占。 
 それらを全て呑み込んでいた。 
 それは愛ではないと、自分に言い聞かせて。 
 大人を装って。 
 それが貴方を傷つけていたなんて、思ってもみなかった。 
 もっと俺を望んでくれと言われて、後悔したよ。 
 そこまで貴方を追い詰めていたなんて…… 

 綺麗な想いである必要はなかった。 
 純粋な想いである必要もなかった。 
 情けない程に、醜い程に。 
 貴方を求めていた事を、教えてあげればよかったね。 

 だから。貴方をこれ以上傷付けないために。 
 遠矢、貴方の望みは全て叶えてあげるよ。 
 例えそれが死であったとしても、ね…… 


貴方がここにいるから 
 お前がここにいるから 
私もここにいるよ 
 俺はここにいれる 
貴方の涙を守れるならば 
 お前の笑顔を失わずに済むならば 
永久を貴方に 
 永久にお前と 

世界の終るまでは 
 お前が死ぬまでは 
  ずっとここに…… 

全ての理に逆らっても 
 運命に逆らっても 
貴方だけは手に入れたい 
 お前だけは失えない 

いつか見た永遠 
 いつか見た真実 
  それを手に入れれるならば…… 

神に逆らっても後悔などない 


 遠矢。 
 貴方が光。 
 貴方が絶対。 
 貴方だけが。 
 私の…全て。 



 LOVE YOU 全てを呑み込んで 
 LOVE YOU すべてを巻き込んで 
 LOVE YOU 永久の闇へと 
 LOVE YOU 身を沈めて 

 手に入れたいのは貴方 
 失えないのは貴方 
 貴方だけを、想ってる 

 LOVE YOU 全てを捨て去って 
 LOVE YOU 全てを消し去って 
 LOVE YOU 久遠の闇の中 
 LOVE YOU 貴方だけが光 

 何よりも強く 
 誰よりも強く 
 貴方だけを、望んでる
 



4. 


 ――最後に太陽を見たのは何時だっただろう? 
 ほら。そんな事も、忘れてる。 
 ――最後に誰かと会ったのは何時だっただろう? 
 ほら。今では友人達の顔すら思い出せない。 

「瑞穂?」 
 遠矢が、怪訝そうに尋ねる。 
 瑞穂は安心させるようにふわりと微笑んだ。 
「外なんて、必要ないよね」 
「必要な物が一つでもあったか?」 
「失えないのは貴方だけだったよ」 
 抱きしめる…その、とうに朱を失った身体を。 
 遠矢からは、死に連なる朱の匂いがしなくなっていた。怪我をする事も、愛刀が血に染まる事もなくなった。 
 太陽の匂いもしない。元々白かった肌は、更に白くなっていた。 
 そして瑞穂もまた…朱を失っていた。 
 そうやって、少しづつ何かを失っていくのだ、この部屋で。 


 一つ時を数えるごとに。 
 何かを失っている。 
 自分に家族がいたかすら、曖昧になっていく。 
 その事を思い浮かべる事も少なくなった。 
 なくならないのは互いだけ…… 

 二人で、いれるから。 
 時を数えるのは苦痛じゃない。 
 眠りにつくのも不安じゃない。 
 忘却だって、悲しくない。 

 貴方がいればいいと、心が告げる。 
 お前がいればいいと、心が囁く。 


 瑞穂がいるから、ここにいる。 
 遠矢がいるから、ここにいる。 
 意味はそれだけ。 

 瑞穂がいるから、ここにいれる。 
 遠矢がいるから、ここにいれる。 
 理由はそれだけ。 


 共に朽ちよう、この部屋で。 
 共に堕ちよう、この闇に。 
 光は、必要ない。 
 外は、必要ない。 
 記憶だって、必要ない。 

 貴方と 
  お前と 
   この部屋があればそれで…… 

 それは永遠に見る夢。 
 それは永遠の紡ぐ現。 



 永遠の意味なんて知らずにいた昔 
 昔の意味なんて知らずにいた昔 
 そこに幸せはあったのか 
 そこに喜びはあったのか 

 月が、見ている 全てを 
 全てを嘲笑うかのように 

 kittenが泣いている、愛し方を知らないと 
 rabbitが泣いている、愛され方を知らないと 
 それでも二人でいたいから 

 罪で十字架が汚れても 
 罰で魂が傷付いても 
 それでもその手は離せないから 

 今は二人 ただ眠ろう 
 幸せの意味は知らないけれど 
 寄り添ってさえいられれば 
 決してそれは不幸なんかじゃないから







ru_ci_fel at 21:16│Comments(0)†創話遊戯† 

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