2011年03月

2011年03月31日

創話遊戯 †森の中の女の子†

 ある日、熊さんが森の中を歩いていたら。
 一人の女の子が切り株の前、月明かりの中で祈っていました。

「もし、お嬢さん。一体何をしてるんだね?」
 女の子は、目を閉じたまま答えました。
「私はただ祈っているだけ」
「一体何に祈っているのかね?」
「私は私に祈っているの」
「神様に祈りはしないのかい?」

 女の子は、初めて熊さんを見ました。
 それはそれは、深い、深い瞳でした。
 静寂そのものを伝えるような、静かな眼差しでした。

 やがて女の子は、囁く様に言いました。

「神様は私を助けない。
 神様は私を罰しない。
 だから神様なんてこの世にはいないのよ。
 少なくても、世間で言われているような神様は。
 だから私は私に祈るの」

「月や星に祈ったりはしないのかね?」

「彼らはとても薄情よ。
 彼らは、ただそこにいるだけ。
 それが、彼らという存在。
 そして、それだけが彼らの存在意義なのよ」

 女の子の言葉は、とても淡々としていて、糾弾する響きも、冷めた響きも、感じられませんでした。

「誰も私を守ってはくれないわ。
 だから私は私に祈るのよ」

「…お嬢さんは、その、守られたいとは思わないのかね?」
「全ての生き物は、与えられた役割と、自分の感じる摂理に従っていきるだけ。
 それに対してどうこうは思わないわ」

 熊さんは、しばらく言葉が出ませんでした。
 この、いかにも自分より小さく、年端の行かない少女に対して、
 掛けるべき言葉も、諭すべき言葉も、幾らでもあるのに、です。
 言葉自体は幾らでも浮かぶのに、浮かぶそばから、それらは泡となって消えるのでした。
 だから熊さんは、長い事口を開けませんでした。

「…お嬢さん。誰も自分を守らない、と言ったね」
「ええ、言ったわ」
「全ての生き物は摂理に従うだけだと言ったね」
「ええ、言ったわ」
「ではお嬢さん」

 一瞬だけ、躊躇う様に区切った後、熊さんは続けました。

「私がお嬢さんを食べても、お嬢さんは恨まないでくれるね」
「…ええ、恨まないわ」

 なら、と熊さんが女の子に齧り付こうとした時。
 女の子が何かを囁きました。

 熊さんは耳を澄ませようとしました。
 でも、できませんでした。
 何故なら、熊さんは腹を深く、深く刺されていたからです。
 熊さんは、何が起こったのか判らないまま、倒れました。

「誰も私を守ってくれないから、私は私を守るのよ」

 そう言った女の子のなかから、兎さんがでてきました。
 女の子は、実はウサギさんだったのです。人間の皮を被ったウサギさんだったのです。
 とびきり剣呑な、ウサギさんでした。

 ウサギさんは、熊さんをじっと見下ろしました。
 そして小さく呟きました。

「だから、私は祈るのよ」

 そうして。
 ウサギさんはまた、祈り始めました。
 切り株に手を乗せて。月明かりの中で。
 朱を纏ったままで。
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ru_ci_fel at 16:25|PermalinkComments(0)†創話遊戯† 

2011年03月21日

即興詩 †満月に想いを寄せて†

 お星さま お星さま
 あなたは願い事叶えてくれる?

 お月さま お月さま
 あなたは願い事叶えてくれる?

 天使さま 天使さま
 あなたは願い事叶えてくれる?

 神さま 神さま
 あなたは願い事叶えてくれる?

 だぁれに聞いてもみぃんな
 首を横に振るばかり

 だぁれも叶えてくれぬから
 私は私を抱いたまま
 暗い夜道を歩きます

 夜道は静かでしんしんと
 音も無いほどただ深く
 それでもどうしてこの夜道
 ただひたすらに歩きます


 森の中で兎たち
 集まって空を仰いでた
 静かにお祈り捧げてた

 空を見たらぽっかりと
 まんまる大きなお月さま
 ただひたすらに明るくて
 ただひたすらに柔らかく

 それでも兎も熊さんも
 お空に祈るだけだから
 私はまた歩きます
 誰かを探して歩きます

 誰か私にマッチを擦って?
 そしたら私温まる
 どうして私にマッチを擦って?
 そしたらきっと温まる

ru_ci_fel at 16:29|PermalinkComments(0)†詩歌遊戯† 

2011年03月18日

即興詩 †夢色虹色シャボン玉†

 地面を目指す 地面を目指す
 ボクはなんに なれるだろう?
 例えば綺麗な薔薇の花
 例えば雄々しい1つの樹
 ボクはなんに なれるだろう?

 地面を目指す 地面を目指す
 ボクはなんに なれるだろう?
 例えば甘い 林檎の樹
 例えば甘い 葡萄の樹
 ボクはなんに なれるだろう?

 地面を目指す 地面を目指す
 ボクはなんに なれるだろう?
 例えば一つの 雑草で
 例えば名も無き 草花で
 ボクはなんに なれるだろう?

 地面はもうすぐ 地面はもうすぐ

 どこかで誰かが泣いていて
 涙が溢れて地面に落ちた
 タンポポがそれを受け止めて
 涙はシャボンになりました

 シャボン玉に包まれて
 綿毛が遠くへ飛んでいく
 ボクもシャボンにくるまれて
 何処か遠くへ飛び立つよ

 虹の向こうか海の向こうか
 知らないけれど飛んでくよ
 空に広がるシャボン玉
 沢山のボクと飛んでくよ

ru_ci_fel at 16:31|PermalinkComments(0)†詩歌遊戯† 

2011年03月08日

即興詩 †王の誕生†

 闇夜に鐘が鳴り響く
 漆黒のラッパを吹き鳴らし
 闇に住まうは悦び震え
 聖なるモノはおののくばかり

 時は来たれり 時は来た
 約束されし勝利の時だ
 我ら総じて時鐘鳴らせ
 今こそ築けよ闇の王国

 黒き冠 頭に戴き
 君臨したれし我等が主
 跪けよ跪け
 まったき王の誕生だ

 マリア像は涙を流し
 全ての十字架は地に倒れ
 全ての聖なるモノ共は
 ただ力無く天を仰ぐ

 ひれ伏せひれ伏せ我等が王に
 時は来たれり約束の時
 我等のもたらす黙示録
 ただただ崇めて敬えよ

 全ての天使を磔に
 全ての神を邪神に堕とせ
 我等の与えしみことのり
 ただただ崇めて敬えよ

ru_ci_fel at 16:35|PermalinkComments(0)†詩歌遊戯† 

2011年03月01日

即興歌 †遥かなりし遠けきパライソは†

 思うだけで罪だと言うのなら
 私はどれだけ罪を犯したのだろう

 どれだけ罪に穢れても
 どれだけ罪にまみれても
 それでも私をアイシテル?
 どこまで私をアイシテル?

 一体あなたはどれだけの罪まで許せるの?
 どこまでならば愛せるの?
 隣人を愛せよとは言うけれど
 一体あなたの隣人はどこまでそれに含まれる?

 嗚呼

 サムイサムイサムイサムイ
 心の臓まで凍りそう
 サムイサムイサムイサムイ
 ねえ、カミサマ?

 博愛のカミサマ
 慈愛のカミサマ
 恵愛のカミサマ
 偏愛のカミサマ

 ねえ、

 サムイサムイサムイサムイ、
 サムイサムイサムイサムイ
 サムイサムイサムイサムイ、
 サ、ムイ?

 何もかもが凍り付く
 果てなき煉獄でみる空は
 見える事すら不思議な程に
 遠く遥けき果てしなく

 底の底まで堕ちてさえ
 素知らぬ顔で冴え冴えと
 ただ輝いている
 パライソは

ru_ci_fel at 16:37|PermalinkComments(0)†詩歌遊戯†